年に一度の大きな支出を、毎月の家計に織り込む方法
年払いの保険料、車検、帰省の費用、入学のお金、給湯器。これを無視した月の予算は、毎月わずかに間違っていて、ある一か月に決定的に間違います。積立の考え方と、初年度をどう乗り切るか。
月の予算はきれいに立っています。食費、光熱費、通信費、日用品。三か月ほど、ほぼ狙いどおりに収まっている。そして四月が来ます。自動車保険の年払い、車検、入学に伴う一式、新年度のPTA関係、そして連休の帰省。その一か月で、三か月ぶんの黒字が消えます。
このとき人は「使いすぎた」と考えますが、事実は違います。使ったお金は、三年前からずっとカレンダーに書いてあったものです。まちがっていたのは予算のほうで、しかも四月だけまちがっていたのではありません。この支出を勘定に入れていなかった十一か月ぶん、毎月わずかに嘘をついていて、四月にその嘘が一気に精算されただけです。
なぜ「月」という単位が悪さをするのか
家計簿アプリも、給与も、家賃も、月を単位にしています。だから月で考えるのは自然です。ところが家計の費用のうち、かなりの部分は月のリズムを持っていません。
- 年払いのもの — 自動車保険、火災保険、生命保険、NHK、年会費、ふるさと納税、確定申告に伴う支払い。
- 二年に一度、三年に一度のもの — 車検、タイヤ交換、パスポート、更新料。
- 季節のもの — 帰省の交通費、お盆と年末年始、七五三、お年玉、冬の灯油、夏の電気代。
- 不定期だが必ず来るもの — 給湯器、エアコン、洗濯機、自転車、スマートフォンの買い替え。いつ壊れるかは分かりませんが、十年のうちに全部来ることは分かっています。
- 子どもに紐づくもの — 入学、進級、修学旅行の積立、部活の用具、塾の夏期講習。
これらを月の予算から外しておくと、毎月の数字は実際より小さく見えます。その小さい数字を見て「うちは月にこれくらいで暮らせている」と思い込み、その前提で他の判断をする。家賃の高い部屋に移る、車を買い替える、習いごとを増やす。判断の土台が数割ずれているわけで、被害は四月の一か月ではありません。
積立という考え方
解き方自体は拍子抜けするほど単純です。不定期な支出を、不定期のまま扱うのをやめる。一年ぶん洗い出して、合計して、十二で割って、その金額を毎月の固定的な義務として扱う。家賃と同じ扱いにするということです。
年間の不定期支出が合計三十六万円なら、月三万円。この三万円は、余ったら回すものではありません。今月払わなければならないお金です。ただ、払う相手がまだ来ていないだけ。
考え方が変わるのはここです。四月の車検は「予想外の出費」ではなく、「十二か月かけてすでに払い終えていたものの受け渡し」になります。家計の見え方としては地味な違いですが、実際の効果は大きい。年に何度か訪れていた「今月は無理だ」という感覚が、構造として消えます。
洗い出しには、一年ぶんの履歴が要る
ここが実務上いちばん難しく、そして一年ぶんの記録が、一か月ぶんの記録には絶対にできない唯一の仕事です。
一か月の記録から分かるのは、その月の暮らしの形だけです。不定期な支出は定義上その月にありません。年間の予算を組むには、丸一年を振り返る必要があります。方法は三つ。
- 家計簿を一年つけている人は、その一年を費目ではなく金額の大きい順に並べて上から読む。上位三十件を見れば、不定期支出のほぼ全部が拾えます。
- 記録がない人は、口座の一年ぶんの入出金明細とカードの一年ぶんの明細を出して、金額の大きい順に並べる。同じ作業を、粗い解像度でやることになります。
- どちらもできない人は、カレンダーを一月から十二月までめくって、その月にお金がかかる行事を思い出す。精度は落ちますが、ゼロよりはるかにましです。
洗い出しの結果は必ず紙かメモに残してください。そして、来年の同じ作業のためにひとつだけルールを足します。不定期な支出が実際に起きたとき、記録のメモ欄に「年次」と書いておく。翌年、その語で検索すれば、洗い出しは十分で終わります。
積み立てたお金をどこに置くか
置き場所の原則はひとつだけです。日常の残高と混ざらないこと。
生活口座に積み上げると、必ず使われます。悪意ではなく、残高を見たときに「今月は余裕がある」と読んでしまうからです。積立が生活口座にある家庭では、積立は毎月成功して、毎月静かに取り崩されています。
現実的なのは、目的別の口座をひとつ分けることです。ネット銀行の目的別貯金でも、使っていない口座でも、袋でもかまいません。条件は、残高が別に見えることと、引き出すのにひと手間かかることの二つだけ。
そして、置いてはいけない場所も明確です。半年以内に確実に使うお金を、値動きのあるものに置かないでください。積立の目的は増やすことではなく、その日に確実にそこにあることです。ここは投資の話をする場所ではありませんが、期限のあるお金と期限のないお金を混ぜないという線だけは、家計の設計として引いておく価値があります。
初年度は、どうやってもきれいにいかない
正直に書きます。この方法の弱点は初年度です。買い置きがゼロの状態で始めるので、最初の一年は「毎月積み立てながら、まだ積み上がっていない支出が来る」という二重払いの期間になります。
対処は、完璧を諦めて順位をつけることです。
- 洗い出した項目を、金額の大きい順ではなく、期限の早い順に並べる。
- 今後六か月以内に来るものを上から見て、そこだけを先に埋める。十二か月ぶんではなく、残り月数で割る。三か月後の車検が十二万円なら、月四万円です。
- 半年より先のものは、初年度は部分的な積立で妥協する。三割でも五割でも、ゼロよりは効きます。
- 初年度に足りなかったぶんは、そういうものだと受け入れる。ここで無理に全額を積もうとして生活費を削ると、たいてい破綻して全部やめることになります。
- 二年目から、ようやく設計どおりの十二分割になる。
つまり、この仕組みが本当に楽になるのは二年目からです。それを知らずに始めると、初年度の苦しさを「この方法は自分に合わない」と誤解します。合っていないのは方法ではなく、買い置きがまだない状態のほうです。
積立を「支出」として書くか、「移動」として書くか
ここは実際によく訊かれるところで、正解は一つではありません。何を知りたいかで変わります。
支出として書く場合
毎月の積立三万円を、費目「積立」の支出として記録する。すると月の支出合計は、その月に本当に負っている費用に近づきます。年払いの保険料を十二で割ったものは、たしかにその月の費用です。
かわりに、実際に車検を払った月にもう一度支出として書くと二重計上になるので、その月は「積立からの取り崩し」として支出に計上しない、という運用が要ります。会計としては筋が通っていますが、月末に一手間かかります。
移動として書く場合
積立は口座間の移動にすぎないと考え、支出には数えない。実際に車検を払った月に、支出として一件計上する。記録は素直で、迷うところがありません。
かわりに、月の支出合計は不定期支出の月だけ跳ね上がります。単月の合計は暴れますが、年間で見ればちゃんと合っている。
「毎月の負担の実像を知りたい」なら前者、「実際に出て行ったお金を素直に見たい」なら後者です。家庭ごとに決めて、途中で変えないこと。年の途中で流儀を変えると、その年の数字は誰にも読めなくなります。
Fambook でどう組むか
この仕組みに必要なものは、実はほとんどありません。
毎月の積立を自動で立てたいなら、繰り返し記録の機能がそれにあたります。月ごとの規則を作れば、短い月には末日に寄せるところまで面倒を見ますし、複数の端末で同じ月が二重に生成されることもありません。これは課金の機能です。
カテゴリごとの月の上限は無料で、これは日々の費目に効きます。
そして、費用をかけずに済ませたいなら、いちばん正直な選択肢があります。積立用のカテゴリをひとつ決めて、毎月自分で一件入れ、メモ欄に何のための積立かを書く。手作業ですが、月に一回三十秒です。仕組みの価値は自動化されているかどうかではなく、その三万円が毎月の義務として扱われているかどうかにあります。
よくある質問
不定期な支出は、どうやって洗い出せばいいですか。
一か月ではなく丸一年を振り返ってください。これは一年の履歴にしかできない仕事です。家計簿があるなら金額の大きい順に並べて上位三十件を読む。なければ口座とカードの一年ぶんの明細で同じことをする。どちらもなければカレンダーを十二か月ぶんめくって、行事から思い出してください。
毎月いくら積み立てればいいですか。
洗い出した一年ぶんの合計を十二で割った金額です。それが答えで、切りのいい数字に丸めたい誘惑には抵抗してください。四万円ではなく三万七千円なら、三万七千円です。丸めた瞬間に、その数字は計算ではなく気分になります。
初年度は積立が間に合いません。どうしますか。
間に合わないのが正常です。金額順ではなく期限順に並べて、六か月以内に来るものだけを残り月数で割って先に埋め、それより先のものは部分的な積立で妥協してください。無理に全額を積もうとして生活費を削ると、たいてい全部やめることになります。二年目から設計どおりになります。
積立は支出として記録すべきですか。
月の合計に何を意味させたいかで決まります。毎月の本当の負担を見たいなら支出として書き、実際に払った月は取り崩しとして計上しない。実際に出て行ったお金を素直に見たいなら、積立は移動として扱い、払った月に一件計上する。どちらでもよいので、年の途中で変えないでください。
積立はどこに置けばいいですか。
日常の残高と混ざらない場所です。生活口座に置くと、残高を見たときに「今月は余裕がある」と読んでしまい、静かに使われます。目的別の口座でも、使っていない口座でも構いません。条件は残高が別に見えることと、引き出すのにひと手間かかることの二つだけです。
給湯器やエアコンのように、いつ壊れるか分からないものは。
個別には予測できませんが、家全体としては十年のうちに何回かは必ず来ます。個別に積むのではなく「家の設備」という一本の枠を作って、そこに毎月いくらか入れておくのが実務的です。何が壊れるかは分からなくても、何かが壊れることは分かっています。
ひと月ためしてみる
Fambook は家族にひとつの共有帳簿を渡します。誰でも数秒で一件書けて、どの記録にも誰が使ったかが残り、ひと月の合計が二か所ではなく一か所にまとまります。圏外でも記録でき、あとから同期します。記録、カテゴリ、予算、統計、CSV の入出力、同期、二人での共有は無料。課金で買えるのは「入力の手間が減ること」だけです。